アメリカ軍主力戦車 M1 A1/A2 エイブラムズ
M1 A1/A2 Abrams


M1A1 エイブラムズ

M1A2 SEP エイブラムズ



■[XM1 MBT開発プロジェクト]
M1エイブラムズMBTの開発は、1972年から行なわれたが、その開発に至る経緯は紆余曲折の末の難産であった
。米国は、第二次大戦で大量生産したM4シャーマン中戦車の後継にM60パットン戦車シリーズを開発したが、その
後の新型戦車の開発は、朝鮮戦争やベトナム戦争の介入で戦費がかさみ予算を計上する余裕が無くなり、ことごとく
頓挫している。特に深刻だったのが、西ドイツと共同開発を目指したKpz70(西独)/MBT70(米)プロジェクトが1970
年1月に中止された事で、米国は70年代のMBT(主力戦車/メインバトルタンク)をM60A1/A2に頼らざろう得なくな
り、当時急速に戦車戦力の充実を図ってきたソ連
(*1)に太刀打ちできない状況が現実化してきた。
遅々として新型MBT開発が進展しない米国を尻目に、ソ連は西側MBTを上回る強力な火力を有する55口径115m
m滑腔砲搭載のT−62中戦車、その後継としてさらに火力を向上させた51口径125mm滑腔砲搭載T−64A/B型
が出現すると、質的にも量的にも米国パットン戦車シリーズは凌駕されるに至る。
米国とソ連の冷戦は、70年代から最盛期に突入すると予想され、強力な戦車戦力を中心とした機甲部隊の整備を大
規模にしかも急速に推し進めるソ連に対抗すべく、70年代後期から遅くとも80年代前期には、次期新型MBTの戦力
化を完了する明確な戦略ビジョンが国防省及び陸軍内で多数を占めることとなる。 それは、強大なソ連機甲部隊の脅
威に曝されている欧州大陸で顕著で、T−62、T−64に対抗する為、M60パットン戦車シリーズの小手先での近代
化改修ではもはや限界をむかえていた。 しかし米議会は、危機感に乏しく米独共同開発Kpz70/MBT70プロジェクト
をキャンセルした後に提案されたXM803プロジェクトも莫大な超過コストの為強硬な反対で退けられた。
一方で、1965年ごろ最初のソ連次期新型MBT開発(後のT−72)の情報を入手し
た国防省の情報部は、現有のM60パットン戦車シリーズでは撃破不能とのレポートを提出、実際に1973年に、ソ連
のT−72MBTが出現すると、その分析結果レポートは議会に提出され、目前の脅威を悟った議会は初めて予算を承
認し本格的な次期新型MBT開発プロジェクトが開始される事となる。

米陸軍は、米独共同開発のMBT70プロジェクトを単純化したXM803プロジェクトを基に1972年よりXM815プロジ
ェクトの研究プロジェクトチームを発足させ、議会の承認を得て正式にXM815プロジェクトを立ち上げた。
1973年6月に国防省及び米陸軍は、ゼネラル・モータース社(GM)とクライスラーディフェンス社
(*2)を選定しXM815
の試作車を競作させた。
米陸軍が両社に要求した次期新型MBTの性能は、現有のM60A3パットン戦車の性能諸元を全て上回る事と、ソ連
の戦車戦力化の中核となったT−72MBTを撃破凌駕する事。また第3次(67年)・第4次(73年)中東戦争の教訓を
取り入れた複合装甲で装甲防御力を強化する事であった。1974年末より各社の試作車両が陸軍の研究所及び演習
場で部分テスト及び各種試験が行なわれた。 1976年に試作車両の最終試験が終了し、6月に国防省はXM815プ
ロジェクトを次世代メイン・バトル・タンクのナンバー1を意味する「XM1」プロジェクト名に変更し、同時に開発製造メーカ
ーにクライスラーディフェンス社を選定した。
1978年から米陸軍は本格的な部隊評価試験を行い、各種テスト及び環境下、実働シミュレーションを繰り返した結果
1979年に国防省及び米陸軍は、次期MBTをXM1にする事を内定し、翌年の国防調達予算に盛り込んで量産型M1
の製造を開始し、1980年2月にリマ陸軍戦車工場で1号車が完成し制式に「M1 エイブラムズ」として採用されて。
M1エイブラムズの命名由来は、第二次世界大戦で独軍最後の大攻勢「バルジの戦い」で米軍に勝利をもたらした英
雄で陸軍参謀総長にしてこのプロジェクトの最大の推進者でもあった「クレイトン・エイブラムズ大将」、彼の名を冠した
ものだった。

(*1)旧ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)現ロシア連邦、1989年にベルリンの壁が崩壊し、マルタ島で行なわれた
   米ソ首脳会談で冷戦終結が宣言されるまで米国主導のNATO(北大西洋条約機構)とソ連が衛星国化させたワ
   ルシャワ条約機構の東西に分かれて熾烈な軍拡競争を繰り広げた結果、1991年にソ連は自滅し崩壊、現在は
   ロシア連邦(RUS)となっている。
(*2)クライスラーディフェンス社は1982年ゼネラル・ダイナミクス社に買収され、現在は兵器製造部門のぜネラル・ダ
   イナミクス・ランド・システムズ社でM1エイブラムズは製造されている。


米独共同開発で70年代のMBTを目指したMBT70


■[M1 エイブラムズ シリーズ概要]
1980年より配備・戦力化が始まったM1エイブラムズは、先進諸国の第3世代MBTとして登場したが、政治的な理
由から火力面はM60A3パットン戦車と同じ105mm砲が搭載されていた。 米陸軍では、M1エイブラムズの改良を
その都度適宜に行なっており、最新のM1エイブラムズは最新の車両用電子システムを搭載した第3.5世代MBTに
進化している。


Photo by US.ARMY

(初期量産型 M1)
最初に生産されたM1エイブラムズは初期量産型
で、M68A1 105mmライフル砲が搭載されてお
り、複合装甲は英国で開発されたチョパム・アーマ
ー系の改良された物が装着されたいた。

Photo by US.ARMY

(改良型 IP-M1)
改良型(Improved Product)は、M1 エイブラムズ
の装甲を改良した新型複合装甲を装着し装甲防御
力を強化したタイプで、砲塔後部や車体・サイドスカ
ートのデザイン等の装甲も強化されている。

Photo by US.Air Force

(火力強化型 M1A1)
M1A1で初めてM256 120mm滑腔砲が採用さ
れ、第3世代MBTとして肩を並べる事となる。 また
、NBC兵器対策として与圧式NBC防護システムも
装備され乗員の生存性を高めている。

Photo by US.ARMY

(重装甲型 M1A1 HA)
M1A1 HA(Heavy Armor)は、複合装甲に劣化ウ
ラン合金(Depleted Uranium)DU装甲を封入した重
装甲強化タイプで、装甲防御力を飛躍的に高めた
と同時に全備重量は60tを超える。

Photo by US.ARMY 4th Infantry Division

(簡易デジタル型 M1A1 D)
湾岸戦争後高価で少量生産のハイテク戦車M1A2
を補完する廉価改修タイプで共同作戦が行なえるよ
うに各種デジタル端末及びソフトウェアをアップグレ
ードさせている。M1A1D(Digital)では、最新のデジ
タル情報通信データーリンクシステムFBCB2(For
ce21 Battle Command Brigade)が搭載され、
上級司令部の情報を各車両でも共有出来るととも
に各種電子装備の能力が向上されている。

Photo by US.ARMY

(ハイテク・デジタル型 M1A2)
M1A1の改良・改修型で62両の新規生産以後は、
全てA1をA2に改修する。主な改修点はIVIS(車両
間情報システム)の搭載、CITV(車長用独立熱線映
像装置)、POS/NAV(自己位置測定/航法装置)で
ヴェトロニクスを大幅に向上させ、戦術情報の共有化
によって共同交戦能力を飛躍的に高めたMBTで
第3世代MBTから第3.5世代MBTに進化している。


Photo by General Dynamics Land Systems


最新進化形態のM1A2SEP
Photo by US.ARMY
(デジタル能力拡張型 M1A2SEP)
M1A2エイブラムズのヴェトロニクスをさらに強化したタイプで各種電子システムは第2世代に更新されているシリーズ
最新進化形態。 改修の目的は旧式化したM1及びIP-M1とM1A1(HA)をM1A2SEPに近代化する事で、主な改
修点は通常複合装甲タイプは劣化ウラン装甲(DU装甲)を装着する事、CITV(車長用独立熱線映像装置)の搭載に
よってオーバーライド機構でハンターキラー能力の付与、CITV及びGPTTS(砲手用主照準システム)とDVE(操縦手
用暗視装置)のFLIR(前方監視赤外線映像装置)を全て第2世代に更新し車長用ディスプレイ(CDUをカラーディスプ
レイに変更し)、IVIS(車両間情報システム)の搭載と中枢となるFBCB2(Force21 Battle Command Brigade)の
アップグレード、POS/NAV(自己位置測定/航法装置)、GPS(global positioning system)全地球無線測位システム
、能力向上型方向・位置報告システム(EPLRS=Enhanced Position Locating and Reporting System)の搭載、TMS
(Thermal Management System)熱管理システムの導入でNBC対策が強化されるとともに車内の室温を一定に保持
する事で電子部品の保護を行なう。 これらの電子装置を統括するメインコンピューターは2台(1台はバックアップ用)
装備されており、MIL-STD-1153C型データー・バスで連結されている。
その他に、アイドリング状態でも大量の燃料を消費するガスタービンエンジンを停止した状態でも各種電子機器及び主
砲・砲塔旋回可動用電気モーターに電力を供給する為にAPU(Auxiliary Power Unit)補助動力装置を搭載しバッテリ
ー充電を行なえる。



■[主砲・主砲弾]
初期量産型M1では、M68A1 105mmライフル砲が搭載されていたが、これは同時期に出現した旧ソ連T−80(1
976年配備)や戦力化を順調に推し進めているT−72(1973年配備)の搭載戦車砲125mm滑腔砲と比較して明
らかに見劣りする物だった。
米陸軍は劣化ウラン弾芯を使用した場合ソ連のMBTを充分撃破可能の見解を示していたが、実のところソ連の大機
甲部隊の危機に晒されている欧州大陸に一刻も早くM1エイブラムズを配備したい政治的な意思が働いていた為で、
米軍には戦車砲用105mm砲弾が大量に在庫してある事もコストを抑える事が出来、M1エイブラムズの配備で予算
を獲得したい米軍にとっては米議会を説得する好材料として有効に活用された経緯がある。
しかし、米陸軍は105mmライフル砲では威力不足な事は認識しており、人力での装填が最大可能な120mm砲の
搭載を見越してXM1(M1)の設計を行ない砲塔の開発・製造は120mm砲の搭載可能な強度とデザインで構成され
ている。120mm滑腔砲の開発は、国産では失敗しドイツのラインメタル社44口径120mm滑腔砲をライセンス生産
で米国流の部品点数を減らして改良を加えたM256 120mm滑腔砲を搭載されたM1エイブラムズは、1985年より
生産が始まりA1の型式名称が与えられた。

M256 120mm滑腔砲を搭載した火力強化型M1A1の主砲弾は、原子力発電所の廃棄物ウラン燃料から抽出でき
るウラン238を原料にチタン(Ti)を0.75〜1%含有させた劣化ウラン合金(減損ウラン・枯渇ウランとも言う)通称DU
弾が使用される。 DU弾は非常に密度が高く、強度に優れておりAPFSDS弾(翼安定装弾筒付徹甲弾)の弾芯に使
用される。APFSDS弾は高速で打ち出される初速1650m/sを利用した運動エネルギー弾で、長くて(L)細い(D)ほ
ど侵徹力が増すとされる。 日本の90式MBTやドイツのレオパルド2A5MBTでは、DU弾に匹敵する強度を持つタン
グステン弾芯のAPFSDS弾が使用されており、L/D値は22前後だが米陸軍のDU弾は30に達するAPFSDS弾が
使用され強大な装甲貫徹力を有する。このDU弾はM829A1と呼称され、M1A1エイブラムズに標準装備されており
砲弾重量は18.7kg、劣化ウラン弾芯は4.9kgで、砲弾の底部だけ閉塞の為金属製だが薬莢も燃焼する燃焼式薬
莢(燃尽式薬莢)Combustible Cartridgeとなっている。現在使用されているのはさらに強度とL/D値を上げたM829
A2と炸薬を強化し初速を1700m/sに向上させた最新型のM829E3が使用されている。
DU弾は射距離2000mで弾着が装甲に対して水平(90度)で均質圧延防弾鋼板710mmを貫徹したデーターが公
表されており、M1A1エイブラムズで名実ともに第3世代MBT最強の火力を手にした事になる。補足としてDU弾は、
若干の放射能を帯びており、砲弾発射後飛散した砲弾の破片等の影響で使用した米軍兵士や湾岸戦争のイラク国民
の間で健康上の問題が表面化しており、米軍の発表では問題は無いとされているが、客観的な意見として現在はDU
弾が人体に及ぼす影響は無視できないとされている。またDU弾は廃棄物ウラン燃料から抽出できる為レアメタルのタ
ングステンより安価で製造可能で、弾芯として使用する場合着弾後飛散した劣化ウランは空気と急激な化学反応を起
こして発火する為焼夷弾としての効果も期待でき、極めて殺傷力の高い戦車砲弾となっている。
DU弾は強大な運動エネルギーを利用して装甲を貫徹するもので主に対戦車戦闘で使用される一方、対戦車戦闘から
対人、対物、軽装甲車両等幅広く多目的に使用されるのが多目的成形炸薬榴弾(HEAT-MP)でM1A1エイブラムズ
ではM830が使用されている。M830は、重量24.2kg、初速1140m/sで、通常は敵性地域で作戦行動中には如
何なる目標に遭遇しても対処出来る様にM830が装填されている。

M1A1エイブラムズでは、M829A1とM830をそれぞれ40発携行しており、その内34発は砲塔バスル内の弾庫に
収められており、残りは車体前部の弾庫に収納されている。 主砲の発射速度は手動装填で通常6発/分だが戦闘時
や緊急時に練度の高い装填手は約12発/分を発揮する事が出来、砲弾の装填は弾庫と乗員室の間のハロン自動消
化装置付きの隔壁パネルで区切られている自動開閉式のドアを開閉して装填手は弾庫ラックから任意に主砲弾を取り
出す。 尚砲塔バスルに被弾した場合弾庫の燃焼式薬莢が誘爆する恐れがある為弾庫上部にはブロウ・アウトパネル
が2枚あり爆圧を上部に逃がして乗員の生存性を高めている。

Photo by US.ARMY

Photo by US.ARMY
砲塔バスル内の主砲弾取り出し口
M256 120mm滑腔砲の砲耳機構、画像左側が装填手席



■[ヴェトロニクス・FCS射撃統制装置]
初期量産型のM1エイブラムズから最新のM1A2SEPエイブラムズまで車載される電子装置及びシステムは大幅に
改修・近代化が施されており、湾岸戦争に参加したM1A1と湾岸戦争後軍事革命(RMA)によってIT化が推し進めら
れた結果、ハイテク・デジタル戦車M1A2が登場する事となった。車両用電子装置システム(ヴェトロニクス)が搭載さ
れたM1A2は、上級司令部が統合運用する陸海空宇宙の各種外部センサーが収集した戦術情報を各車両が個々に
共有出来るため、M1A2の車長は司令部の作戦意図を理解し効率的な戦術機動と目標攻撃が行なえる。
これによってM1A2エイブラムズは、A1に比べて外見はほぼ同じだが作戦戦闘力が飛躍的に向上し、第3世代MBT
から進化した第3.5世代MBTと言われる由縁となっている。

Photo by US.ARMY 4th Infantry Division
ハイテク・デジタル師団としてモデル部
隊に指定された第4師団HPに掲載され
ている電子装備を満載した最新型M1A
2SEPの紹介。
その卓越した共同交戦能力と圧倒的な
夜間戦闘能力はアフガニスタン及びイラ
ク戦争で証明されている。

米陸軍第4歩兵師団HPはこちらから


[IVIS(Intervehicular Information System)車両間情報システム]

Photo by US.ARMY

Photo by General Dynamics Advanced Information Systems
M1A2車長用第1世代ディスプレイ MMU(Mass Memory Unit)大容量記憶処理装置
IVISは、上級司令部が収集した敵情報を元に戦車大隊司令部が企図する作戦を大隊隷下のM1A2エイブラムズ約
60両がリアルタイムで情報を共有出来ることにあるが、システムの中枢は大容量・高速通信が可能なデジタル通信
システムSINCGARS(Single Channel Ground & Airborne Radio System)単一チャンネル・地上/空中通信装置で
デジタル暗号化された音声や地図・文字情報をVHFの周波数ホッピング・モードで送受信される。これによって、同一
通信システムを搭載する各車両間(M1A2等)や攻撃ヘリ、航空機に直接支援要請が行える。 また、無線傍受や電
波妨害に対して強い対抗性を持ち合わせている。
その他には、DIU(Digital Interface Unit)デジタルデーター・インターフェイスは大容量の画像データー専用の通信装
置、DCS(Digital Communication System)デジタル式通信装置は暗号化通信の際に利用される。
これらの通信システムから得られた情報は車長用統合型ディスプレイに表示され、CITV(車長用独立熱線映像装置)
の熱線映像やマップ表示、各種戦術情報の攻撃目標や距離・方角が表示される。


[CITV(Commander's Independent Thermal Viewer)車長用独立熱線映像装置]

Photo by Raytheon

Photo by OASIS Advanced Engineering
CITV(車長用独立熱線映像装置)、車外 M1A2車長用第2世代ディスプレイ、車内
M1A1エイブラムズでは、車長は砲手用主照準装置(GPTTS)の熱線映像装置をディスプレイ上でしか視察出来なか
ったがM1A2では車長用に砲塔前部上面左側に独立した全周旋回可能なペリスコープが設けられ、砲手が目標に照
準を行なっている間でも、車長は専用のペリスコープを使用して車外の視察警戒を行う事が可能となり、新たな危険な
目標を探知した場合は砲手の照準をオーバーライドするハンターキラー能力が付与されている。 CITVには熱線映像
装置が内蔵されており昼夜間を問わずに車外の視察・警戒が行なえる。 画像(車内)は、M1A2エイブラムズの車長
用第2世代ディスプレイで第1世代と比較して横置きから縦置きに変更されている事に注目。 その横にある車長スティ
ックは、CITV(車外)の視察装置制御用で全周360度上方20度下方12度まで制御可能、その他に砲塔の制御用も
兼用。


[POS/NAV(Position/Navigation)自己位置測定/航法装置]
航空機や艦船等に搭載されている慣性航法装置(INS)をさらに発展させて車両用に改良が加えられた物で、出発点
及び起点の座標を入力すればシステムコンピューターと加速度計が位置計算を行い自己位置の算出をする。POS/N
AVでは自己位置だけではなく急遽目標地点の変更が強いられる場合等でも座標入力を行なえば自動的に最も効率
の良いコースがディスプレイ上に表示され短時間・短距離で移動及び機動が行なえる。 また、自己位置が特定できる
POS/NAVは測距装置から得られた情報を基に目標までの距離と方角が算出され、それらの情報はFCS(射撃統制
装置)に常時送信されており砲手は射撃CPに手動入力する事無く瞬時に任意の攻撃目標に照準・射撃が行なえる。
POS/NAVシステムの搭載の最大のメリットは、湾岸戦争で多発した同士討ちを防げる事で、自己位置情報は他の
大隊内の僚車に転送されており、味方の位置情報と敵の位置情報は、車長用の統合型ディスプレイ上で常に確認す
る事が出来る。さらに、このPOS/NAVシステムとGPS(global positioning system)全地球無線測位システムを併用
して正確な自己位置と味方僚車位置を特定する事によって、戦場でパニック状態に陥った乗員が誤って僚車を射撃し
ないシステムの開発が現在進められている。


[FBCB2(Force21 Battle Command Brigade and Below)フォース21旅団・部隊用戦闘指揮システム]

Photo by Northrop Grumman

Photo by US.ARMY
M1A2SEP及びM1A1Dに搭載されている最新型のデジタル情報通信データーリンクシステムでIVISと併用して使
用される。IVISは主に自己位置と味方僚車位置情報をリアルタイムで相互通信し上級司令部から得られる戦術情報
を基に攻撃目標を選定するもので、FBCB2では、戦術インターネットを利用して攻撃目標の詳細な情報を入手し最適
な攻撃方法を選択し、時として目標の攻撃が行なえない場合には即座にその情報を他のハードウェアに配信して、砲
兵部隊や航空機・攻撃ヘリ等に支援要請を行えるものである。


[GPTTS-LOS(Gunner's Primary Tank Thermal Sight-Line of Sight)砲手用熱線映像主照準装置]

Photo by US.ARMY
1.砲手用砲塔主砲制御スティック
2.砲手用直視照準装置
3.LRF(レーザー測距装置)
4.砲手用主照準装置(DGPS)
5.TIS制御パネル
6.倍率切り替えレバー 3倍と10倍
7.砲手用射撃弾道計算制御パネル
(注)M1A1砲手席
M1エイブラムズから最新型のM1A2SEPまで砲塔上部右側に搭載されている主照準装置。 M1からM1A1まで
車外の視察用潜望鏡はGPTTS(砲手用主照準装置)のみでM1A2で初めて車長用の独立全周視察用潜望鏡(CI
TV)が採用されている。GPTTS-LOSはTIS(Thermal Imaging Sight)熱線映像装置とELRF(Eyesafe Laser Rang
efinder)アイセーフ・レーザー測距装置、TAS(Two-Axis Stabilizer)2軸安定サイトから構成されている。


・TIS(Thermal Imaging Sight)熱線映像装置/FLIR(Forward Looking Infrared)前方監視赤外線映像装置

Photo by US.ARMY
砲塔上面前方に装着されているGPTTS-LOS
左側がTIS用で右側がLRF用サイト。使用され
ない時には観音開き式のシャッターが閉じられ
る。
TISは目標の熱線を捕らえるため砂塵や悪天候下及び昼夜間を問わず目標の探知・捕捉が可能となっている。初期
量産型M1エイブラムズからM1A2まで第1世代熱線映像装置が搭載されているが、より精度が向上した第2世代
FLIR(前方監視赤外線映像装置)はM1A2SEPに搭載される。第1世代熱線映像装置は昼夜間を問わず敵味方識
別を行なえたが、遠距離での状況把握に難があり湾岸戦争でも同士討ちの原因ともなっていた。 第2世代FLIRでは
、この点を改善し第1世代で狭角視界10倍で広角視界3倍の2段階切り替え式を第2世代では、3・6・13・25・50
倍の5段階切り替え式に変更している。 さらに最大探知距離は第1世代と比較して4000mから6800mと70%向
上、精密射撃時の有効射程を2500mから3250mと30%向上、敵味方識別探知距離(夜間快晴時)は1500mか
ら1950mと30%拡大している。また画像の鮮明化による射撃精度が向上しターゲットロックオン時間も45%短縮を
実現している。


・ELRF(Eyesafe Laser Rangefinder)アイセーフ・レーザー測距装置

Photo by US.ARMY
M1A2D 砲手席M1A1と
比較してELRFが違う事と
、TISがまだ第1世代が搭
載されている事に注目。
LRF(レーザー測距装置)は、主砲照準時に目標との正確な距離と方角を測定する重要な装置で、M1エイブラムズ
からM1A2ではCO2レーザーが使用されているが、 人道上の観点からYAG(イットリウム・アルミ・ガーネット)アイセ
ーフ・レーザー(ELRF)が使用されている。M1A1D型とM1A2SEP型で最初に採用され、その後全車に他の装備
に優先して装備される事となる。


・TAS(Two-Axis Stabilizer)2軸安定サイト
GPTTS-LOSの砲手用熱線映像装置内に内蔵されているTASは、スタビライザー(安定装置)が設置されており車
体の挙動に対して照準線(レティクル)を安定化させ主砲を目標に追従させる装置で、初期量産型のM1エイブラムス
では主砲のスタビサイズは垂直方向のみだったが、M1A1からは垂直・水平方向のスタビライズも可能になり移動し
ながら移動するターゲットを捕捉・射撃する行進間射撃時に正確な目標命中率を達成している。



■[主装甲 劣化ウラン装甲]
M1エイブラムズの開発と配備戦力化は、欧州方面の危機が一刻の予断も許されない状況の中政治的にも軍政面
上、戦略的にもその配備が急務となっており、結果として未完のまま量産を始めた経緯がある。
初期量産型では英国の技術供与によって新型の複合装甲を開発したが、当時のソ連MBTは125mm滑腔砲が搭
載されており、APFSDS弾の直撃に耐弾性を期待する事は難しかった。初期量産型M1エイブラムズに採用された
複合装甲は、第4次中東戦争(1973年)の戦訓から導き出された主にHEAT弾(成形炸薬榴弾)対策であった。
第4次中東戦争では、緒戦でエジプト軍がソ連から提供されたAT−3対戦車誘導ミサイルやRPG−7歩兵用携帯
ロケットでイスラエル軍MBTを多数撃破し各国の陸軍関係者に衝撃を与えた。 この為、M1エイブラムズの砲塔正
面車体正面には、防弾鋼板製のBOX内に超硬度のセラミックス材が大量に封入されておりHEAT弾に対して絶大
な耐弾性を発揮した物だった。その後、ソ連MBTの125mm滑腔砲APFSDS弾に対抗する為チタン合金と特殊硬
度セラミックス材で装甲防御力を向上させたIP-M1エイブラムズを登場させており、正面装甲厚さは驚異的な760
mmに達しているという。
本格的な装甲防御力強化策はM1A1の重装甲型になってからで、このM1A1(HA)ヘビーアーマータイプは劣化
ウラン合金を纏った複合装甲を装着している。劣化ウランは、非常に密度が高く鋼の2倍以上有り理論的には鋼板
製防弾板の5〜7割増しの耐弾性を発揮出来る。この劣化ウランに0.7%程度のチタン(Ti)を含有させた劣化ウラ
ン合金をワイヤー状に加工し、メッシュ状に編み込んだ物を積層し鉛コーティング(乗員の放射能対策と核兵器等の
被爆対策を兼用)が施されており、これを防弾鋼板製BOX内に挿入している。 湾岸戦争では、865両のM1A1エ
イブラムズが現地クウェートでHA仕様に改修され、砲塔正面装甲と車体正面を切り開き劣化ウラン合金装甲を封入
して再び防弾鋼板で封をする作業が行なわれた。この作業は全工程を約1時間程度で終了する事が出来、M1A1
の通常タイプのセラミックス複合装甲はパッケージ化されているもので、他の先進諸国MBTの複合装甲の様に圧
縮処理されていない事が判明している。
劣化ウラン合金装甲は莫大な運動エネルギーを有するAPFSDS弾の直撃に対して高硬度を発揮し衝突時の熱エ
ネルギー変換に対して溶解しにくく、結果耐弾性が向上し初期量産型のM1エイブラムズと比較して2倍の装甲防
御力を付与された事になった。
その装甲防御力は驚異的で均質圧延防弾鋼板(RHA:Rolled Homogeneous Armor)に換算してAPFSDS弾では
600mmに相当、HEAT弾では1300mmに相当し、これはT−72の125mm滑腔砲 APFSDS弾が距離2000
mで水平に着弾した場合の侵徹体穿孔力は約300〜350mm相当と言われているので、劣化ウラン合金装甲は
ソ連製MBT及びソ連製HEAT火器に対して優位な耐弾性を持ち合わせている事になり、このアドバンテージは、湾
岸戦争で見事に実証される事となる。

Photo by U.S.Army Research Laboratory
防弾鋼板製BOX内に収めされた劣化ウラン合金
装甲。その下にチタン合金製パネルが内部装甲に
溶接されている。 これらの装甲の上にさらに上部
装甲が被せられる。画像は、M1A1HA型への改
修作業。



■[車体]
M1エイブラムズ・シリーズは、当初政治的な理由から105mmライフル砲が搭載されていたが、M1A1で120mm
滑腔砲が搭載されるに至り第3世代MBTとしての条件を完備した。 砲塔の開発も設計段階から120mm滑腔砲の
装備を考慮しており、設計上のキャパシティに余裕を持たせている。砲塔のデザインは正面装甲に傾斜を持たせてお
り避弾経始の概念が取り入れられている。 これは強大な運動エネルギーを有するAPFSDS弾に対抗するものでは
無く、120mm戦車砲より小口径の砲弾を弾かせる程度の効果を期待している。 砲塔は低平なデザインで車高を抑
えているが幅が広く車体幅に迫っている。 これは、使用される砲弾が120mm砲弾となり携帯弾薬数の兼ね合いと
乗員室の装填手の作業スペースを確保しなければならない事に関係している。 砲塔内の乗員室は右側の前部に砲
手が位置しその後方上部に車長が位置しておりタンデム状態で座っている。左側には装填手が配置され、車体前部
中央よりに操縦手席が配置されている。
車体後部は機関室でM1エイブラムズから最新型のM1A2SEPまでテクストロン・ライカミング社製AGT-1500ガス
タービンエンジンが搭載されている。MBT用ガスタービンエンジンの搭載はM1エイブラムズが世界初となっている。
ガスタービンエンジンは、圧縮用のコンプレッサーで空気を圧縮しコンプレッションエアー(圧縮空気)を燃焼室で燃料
を噴射して燃焼させ、高温高圧となった燃焼ガスで出力用タービンを回転させるもので、この圧縮タービンと出力用タ
ービンは同軸上で回転しており同時に圧縮・出力が行える為効率の良いエンジンとなっている。 反面アイドリング時
でも常時高速回転を維持しなければならず、燃料消費量は他のMBTが採用している2サイクルディーゼルエンジンと
比べて劣り、1リットル当たりの走行可能距離は約243mである。
ガスタービンエンジンの搭載によってM1エイブラムズの戦術機動は良好で、特に加速力はガスタービン特有の性能
として特筆すべき物がある。M1エイブラムズでは時速32km/hに達するまで6.2秒しか要せず最高速度は72km
/hを発揮する。但し装甲改修や近代化によって車重が60tを超える様になると戦術機動は低下し最高速度等は最新
型のM1A2SEPでは65km/hまで低下している。米軍では近年、M1エイブラムズシリーズの近代化に求める要求
は戦場での戦術機動力よりソマリア、コソボ、アフガニスタン、イラク等でみられる様に地域型紛争に対処すべく戦略
輸送力を重視しており、アンダーパワーとなったガスタービンエンジンの換装は、ヴェトロニクスの充実した装備と比べ
て軽視されている。 M1 エイブラムズシリーズは、戦略運用される場合C−5ギャラクシー戦略輸送機に2両、さらに
未舗装路簡易前線航空基地(900m級滑走路)にC−17グローブマスター戦略戦術輸送機で1両緊急空輸する事
が出来る。



[車体諸元]
M1 M1A1 M1A2
全長(主砲含む) 9.76m 9.83m 9.83m
車体長 7.80m 7.80m
全幅 3.60m 3.60m 3.60m
履帯幅 3.43m 3.43m 3.43m
全高(最大) 2.84m 2.84m 2.84m
全高(砲塔上面) 2.43m 2.43m 2.43m
全高(車体高) 1.70m 1.70m 1.70m
最低地上高 0.48m 0.48m 0.48m
全備重量 54.45t 57.154t(A1)
63.0t(HA)
67.25t(A2)
69.54t(SEP)
接地圧 13.1 PSI 13.8 PSI 15.4 PSI
乗員 4名 4名 4名




動力機関 テクストロン・ライカミング製
AGT-1500ガスタービン
左に同じ 左に同じ
最大出力 1500hp/3000rpm  1500hp/3000rpm  1500hp/3000rpm 
路上最高速度 72km/h 67km/h 65km/h
出力重力比 27.7hp/t 26.3 hp/t 21.3 hp/t
路上航続距離 495km 465km 465km
燃料搭載量 1920L 1920L 1920L
登坂力 60% 60% 55%
超提高 1.2m 1.2m 1.2m
超壕幅 2.7m 2.7m 2.7m
懸架方式 独立懸架トーションバー 独立懸架トーションバー 独立懸架トーションバー

[武装]

M68A1 105mmライフル砲 M1エイブラムズ/IP-M1
M256 120mm滑空砲 M1A1/M1A1HA/M1A1D/M1A2/M1A2SEP

105mmライフル砲×1  105mm砲弾×55発
120mm滑空砲×1    120mm劣化ウラン徹甲弾×40発(SEP42発)
12.7mm機関銃×1   12.7mm弾×1000発
7.62mm機関銃×1   7.62mm弾×12000発
6連装発煙弾発射機×2  発煙弾×24発








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