ビジネスさまざま
カルフールは日本人研究が足りない
昨年12月8日の店舗オープン前に大胆にもNHK「おはよう日本」でCMを打ったスーパーマーケットがある。恐らくタダで。フランス資本 Carrefour カルフール がそれだ。
1号店の幕張店(千葉市美浜区)に続き、東京都町田市、大阪府和泉市に開店した。1号店を見る限り、日本人研究が足りない。
さて、このカルフール、今後の狙いは日本の有力スーパー網の買収だろう。引っ掛かるのはどこの会社だろうか。
総じて民放よりはるかに立派なNHKだが、番組を見ていて時にイライラするのは、「CMをしない」という建前の、名状しがたい偽善である。
いささか古いが、山口百恵の昭和53年の歌『プレイバック part 2』 の「真っ赤まっかなポルシェ」が、NHKの歌番組で日本語のアクセントを無視して「真っ赤な車」になってしまったのは有名な話だ。
先日もNHKのニュースを見ていたら展覧会の報道があって、行ってみたいなと思っても肝心の開催場所は伏せて言わない。ところがその後でNHK主催の催しを紹介する言わば楽屋落ちのニュースがあって、こちらはしっかり、どこでいつまで開催していると報じていた。
そんなNHKが、フランス資本のカルフール1号店開店をしっかりCMした。忘れもしない、視聴率抜群の「おはよう日本」の8時前後の時間帯だった。広々とした店内。買い物カートで1階から2階に移動できるように、エスカレーターは段差なしの動く歩道式になっているというところまで。色とりどりの野菜をきれいに陳列した様子など、なるほどヨーロッパの市場いちば風で、店側の演出も十分だった。
年末に日経を読んでいたら、これまたカルフールが面白いという記事があった。オモチャ売り場には子どもが遊べるコーナーもあるというのに、いささか心が動いた。
そう言えば、田中 宇さかいさんのコラムにも、カルフール(家楽福)上海店の紹介があったな、と思い出した。
今年の元日に、さてどこへ行こうかと家族で相談した。カルフールは? と提案したら、わが保守派の家内が賛成するではないか。なんでも、フジテレビの報道番組でもお薦めのお店ということで紹介していたらしい。
これは行くしかない、というわけで、松山から来た義母も伴って、一家5人で出かけた。
何しろカルフールは世界に大から小まで約9000店を構え、グループの年間売上高は約6兆円だという。国際的な商品調達を活用した品揃えと安さが武器の「ハイパーマーケット」の元祖、という触れ込みだ。
わが家内は、昔行ったことのある香港のスーパーを何となく想像していた。中国にも店舗を出しているのだから、日本の普通の店にはない中華料理の冷凍食品がいろいろあるんじゃないかしら。フランスのかわいい子供服もあるかしら、などなどかわいい想像を膨らませていた。
コラム子は、アメリカのショッピングモールを想像していた。子どもたちや義母が、一味違う大型店を体験できればな、などと思っていた。
正月だから福袋もあるだろう。袖が長くてそのままでは着られない、ヨーロッパ人向けの衣服の売れ残りが入っているかもしれないが、まあ3000円ていどの福袋ならご愛嬌かな、などと考えていた。
各人がそれぞれに夢を描いて行ったカルフール。何せ日本の主要マスコミがベタ褒めの店である。
そして、完全に当てが外れた。
たしかに生ハムの量り売りのコーナーはよかった。チーズも、パック売りのブリーチーズはなかなかのお買い得だった。フランスパンのバゲットも飛ぶように売れていた。
しかし、それだけ、だったのだ。
そして娘たちが言った。
「うちの近くのマルエツといっしょだねぇ」
そう言ってケラケラ笑ってくれるのがせめてもの救いだった。
要は、カルフールが私たちに新たに提案してくれる商品は何もなかったのである。
衣服のコーナーを見てまわったのは家内と義母。怒りとともに、「買うものは何もなかった。値段も安くない」と言い放った。
家電品コーナーを見ると、決め打ちで特定の商品の薄利多売を図っているように見えた。商品の品揃えは極めて貧弱だった。
オモチャ売り場の遊びのスペースなど、文字通り子どもだましで、娘たちは見向きもしなかった。
飲食コーナーのワッサワッサとした人ごみは、どこぞの会社の地下食堂かと思った。若干の安さは認めるが、頼んだスパゲティーを盛って出てきた陶器の皿は、5皿中2皿が端の欠けた皿だった。コストセーブの哲学のなれの果てがこれか。
トイレの設置場所も少なすぎて、女性のトイレは長蛇の列である。
周りの人の表情を見ても、なんとなくささくれ立っているように見えた。
コラム子よりもはるかに常識に富む家内が「もう2度と行かないわ」と言うのだから、他は推して知るべし。いかなる店に行っても必ずおねだりをするわが娘たちが、ついにおねだりをしなかったカルフールであった。
われわれ日本人が戸惑っているのだから、進出してきたフランス人のほうはもっと戸惑っていると思う。
日経の2月13日東京本社夕刊で、1月16日開店のカルフール南町田店の店長が語っている。
《日本市場は他のアジアのそれとはまるで違う。今回の任務は大変な挑戦。》
この45歳のマーク・サラ店長は、平成6年から韓国で経験を積んできた熟練店長だというのだが、その人にしてこう言わしめるのだから、日本のスーパーマーケット界の成熟度・洗練度は大変なものなのだろう。
世界で9000店という触れ込みのカルフール。
フランスの第1号店は昭和38年開店だ。2500平米のフロア、400台の駐車場が、当時としては画期的だった。いま、フランス国内で3837店。うち1552店がコンビニで、Shopiショピ、 8 a huit ユイ・タ・ユイ(8時から8時)、Marche plusマルシェ・プリュという名前で出ている。イトーヨーカ堂がコンビニのセブン・イレブンを出しているのと同じだが、セブン・イレブンは日本全国で7000店を超えているのだから、カルフールグループのコンビニなどかわいいものである。
カルフールの進出している国を見ると面白い。ラテン系の国ばかりなのだ。
フランスの次に多いのがスペインの2656店、イタリアの985店。ベルギーの534店は平成11年に同国大手のPromodes プロモデ社を買収したことによる。次いでギリシャの332店、ポルトガルの306店と続く。
アメリカ新大陸はと言えば、アルゼンチンの361店、ブラジルの189店、メキシコの18店といった具合。
要は、英国・ドイツ・オランダ・米国・カナダといったゲルマン系の国々には参入できていないのである。
ゲルマン系の国の店とラテン系の国の店と、どこか違うのだろう。
日本でも、ラテン系の雰囲気なのは関西だから、カルフールは関西で成功するのではないか。ゲルマン系の関東では、たぶん散々な目に遭うのではなかろうか。
昭和34年に発足して、本格的な店舗を昭和38年に開いたカルフール。面白いことに、この時期にちょうど日本でも、後に大手スーパーとなる企業が相次いで発足している。
ダイエーの1号店は昭和32年に大阪で開店。
イトーヨーカ堂も、大正9年開店の浅草の羊華堂洋品店が源流ではあるが、株式会社ヨーカ堂ができたのは昭和33年4月だ。
この業界、いかに一括購入で値段を下げ、効率的出店で物流費用を下げるかがポイントだ。
いまのカルフールのように、散発的に出店しても、商品購入のバーゲニング パワーはない。メーカーからの直接購入のための問屋外しで、商品のバラエティーに劣る店内。日本の店舗には自主開発商品もまだなく、陳列商品に新鮮味はない。とすれば、既存の他社の店に何で対抗するのか。
幕張店を見ていると、他社との違いは店員数を減らすことによるコスト削減と見えた。通路が広いのも、カートが通りやすいようにというよりも、見通しがきく店内にして万引きをしにくくしているのだろう。
これで集客できるほど、日本の消費者は甘くない。
カルフールが日本で生き残ろうとすれば、日本のどこかのスーパーを買収して、「カルフールグループ」としての一括購入力を高めるほかないだろう。
このフランス資本の餌食となるのは、ラテン系の大阪がベースのダイエーではないか、というのがコラム子の読みである。
もし当たったら、カルフールで1升瓶入りのワインを買ってお祝いしようか。さても苦い酒であろうが。
(平成13年3月11日)
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反響 (引用はご本人の了解をいただきました):
徳島県出身で千葉県にお住まいの読者のかたから3月16日にこんなメールをいただきました。
《海外といっても、私が頻繁に自分の目で見て回ったのは、北米各地、カリブ諸島、上海、香港、ジャカルタくらいですが、コラムに書かれている幕張カルフール所見は常識的判断で適切なものだと思います。私や家内の感想も全く同じです。
値段が格段に安いかと思えばそうでもなく、チーズコーナーは確かに魅力的でしたが、それ以外は何でもない。通路や駐車場が広いのはいいかもしれないけど、だから といって気配りがきめ細かい訳でもない。
賞味期限の切れたパンが置いてあるのを見たとき には、「いくら開店したばかりとは言え、日本の既存スーパーでは決してやらないのでは?」と感じました。
広告御用聞き的マスコミ報道に期待させられ過ぎていましたね。》